監修者 竹村 直浩

・会計事務所での実務経験を起点にキャリアをスタートし、
 約30年間にわたりデータベースマーケティング/BPO業務/起業支援/新規事業立案に従事
・データベースマーケティング関連事業・新規事業支援会社では、
 創業者・代表取締役として30年間経営を牽引(現在は取締役として参画)
・新規事業コンサルティング会社の代表取締役として、経営管理・新規事業立案などの業務支援を提供
・介護・衛生管理、シニア向けIT、マーケティングDB構築など複数領域で取締役を歴任し、
 事業開発と組織運営の両面から企業成長を支援

人的資本開示支援とは?2026年度から求められる企業の戦略的対応を解説

コラム

2026年度の人的資本開示は、単なる報告から戦略的メッセージへと進化しています。企業に求められるのは、数字だけでなく人材への投資と経営戦略のつながりを語る力。開示ルールの強化や投資家視点の変化に応じた対応が、企業の信頼性と中長期的価値の創出につながります。

本記事では、人的資本開示支援の全体像とその実務を丁寧に解説します。


2026年度における人的資本開示支援とは何か

人材を資本と捉える視点の転換

人的資本開示支援とは、企業が人材を価値創造の源泉として捉え、その育成や活用の成果を数値とストーリーで可視化する取り組みです。支援内容は、コンサルティング・HRテック・AI分析など多岐にわたります。

以下のように、人的資本の捉え方が根本から変化しています。

従来の考え方2026年度以降の考え方
人材=コスト人材=投資資産
評価されるのは活動量評価されるのは成果と戦略との連動
年次報告の一部として開示経営の中心として開示内容が問われる

単なる報告から戦略的開示への移行

単なるデータ提出では、ステークホルダーに響きません。たとえば、「離職率が下がった」という結果も、それがどのような戦略的意図と結びつき、どのような組織文化の変化をもたらしたのかを語ることで、開示の説得力が格段に向上します。


2026年度に人的資本開示支援が重要視される背景

制度改正による新たな開示義務

2026年3月期からは、金融庁の改正ルールにより開示義務が拡充されました。給与の公平性ダイバーシティ指標など、より具体的かつ定量的な開示が求められています。

分野開示内容(例)
報酬・処遇従業員区分別の報酬差異、インセンティブ構造の明示
サステナビリティ対応SSBJ基準に準じた人材戦略との連動性
意思決定体制人事・組織戦略に関するガバナンス構造の明記

IFRS対応と2027年問題への備え

2027年3月期から国際開示基準が義務化されることを受け、2026年度は準備期間として重要です。各社は以下のような対応を進めています。

対応項目必要なアクション
データの標準化定義の統一、部門横断のKPI策定
可視化ツールの導入ダッシュボードやBIツールでリアルタイム分析を実現
内部統制の整備人的資本に関するリスク評価と対応フロー構築

投資家視点の変化とストーリー重視

投資家が重視するのは、以下の要素の連携です。

投資家が求める視点内容
戦略との整合性開示される情報が経営方針と一致しているか
意図の明確さなぜこの項目を強化しているのか
将来への展望今後の育成・配置戦略の計画と投資の方向性

人的資本開示支援の主な内容と提供サービス

戦略立案と言語化の支援

コンサルティング会社や社内の戦略部門が連携し、人的資本の位置づけ・方針・目標を明確にします。具体的には、「どのスキルセットが不足しているか」「どのポジションに人材を投入すべきか」を定量的に示し、経営に貢献する人材戦略を描くことが求められます。

項目内容
方針の明文化経営戦略に紐づく人材方針の策定
成果の可視化スキル習得率や配置転換成果の見える化
継続的改善体制の構築PDCAサイクルに基づいた人的資本運用のフレーム策定

HRテクノロジーによるデータ活用

以下のようなSaaSツールが導入されています。

指標ツール活用のメリット
育休取得率自動計測と部門比較による透明性の向上
離職率(属性別)年齢・職種・性別別での傾向把握と予兆検知
スキル保有率社員の現在地と必要スキルの差分を見える化

リアルタイムな可視化部門別分析が可能になり、迅速な意思決定が実現されます。

生成AIを活用した情報整理と資料作成支援

2026年は、生成AIによる支援が本格的に導入され始めました。

活用分野AIの役割
離職予兆分析出勤記録・業務量・相談履歴からリスク社員を抽出
レポート作成支援開示用文書の構成案生成、要点抽出、ナラティブ構築
採用最適化社内スキルマップに基づいたリソース配置と募集要件提案

AIを補助的に使うことで、人的負荷を削減しつつより深みのある情報提供が可能になります。


2026年度における具体的な人的資本開示項目

人的資本可視化指針に基づく重点領域

人的資本指針では、以下のような4分類の開示が推奨されています。

分野指標例
人材育成研修投資額、OJT実施時間、eラーニング利用率
流動性新卒・中途採用比率、定着率、配置転換率
多様性女性管理職比率、外国籍社員比率、年齢構成の偏り
健康・安全メンタルヘルス対策の有無、休職率、労働災害の発生状況

このほか、「育成施策がどのようなスキル形成につながったか」などの因果性説明も求められています。


実務上の対応ポイントと成功の鍵

人的資本開示を経営改革の起点に

単なる義務対応ではなく、自社の「強みの言語化」「魅力の訴求」として活用することで、人的資本開示は企業価値向上の武器となります。

たとえば、ある企業では以下のような成功事例が見られます。

施策成果
女性管理職候補のピックアップ制度管理職登用率が前年比15%増加
社内公募制度の強化離職率が20%改善、自己成長実感の向上
リスキリング支援制度の整備技術職社員の再配置による外注費10%削減に成功

定量的成果だけでなく、従業員のエンゲージメント向上にもつながったという評価が得られています。


まとめ

2026年度の人的資本開示支援は、もはや形式的な報告義務にとどまりません。経営戦略と人材戦略の融合を示す重要な「経営メッセージ」としての位置づけが求められています。数値の正確性だけでなく、その背景・戦略意図・成果までを一貫したストーリーとして語れる企業が、投資家や社会からの信頼を獲得していくでしょう。

人的資本をどう育て、どう活かしていくのか。
その問いに答えることが、2026年を生き抜く企業にとって不可欠な経営課題です。