監修者 平岡 拓也

医療業界に特化した社会保険労務士。
大学卒業後、調剤薬局にて事務・登録販売者として勤務し、その後本社人事労務を担当。現場と本部の双方を経験し、医療業界特有の労務課題やメンタルヘルス問題に精通している。

風通しの悪い職場環境を経験したことをきっかけに、働きやすい職場づくりを支援するため社会保険労務士として独立。従業員のモチベーション向上やメンタルヘルス対策を重視した人事労務支援を強みとする。

FP2級資格を保有し、企業型DC(確定拠出年金)の導入支援にも対応。福利厚生制度の整備を通じて、従業員の将来の安心と企業の持続的成長をサポートしている。

雇用保険の適用拡大とは?週10時間以上勤務者も対象になる2028年制度改正

コラム

2028年10月から、雇用保険の適用対象が週10時間以上働く短時間労働者にも拡大されます。制度の背景や変更点、企業と労働者への影響、今後のスケジュールまで、この制度改正の全体像を分かりやすく解説します。


雇用保険の適用拡大とは?制度改正の背景と目的

多様化する働き方に制度が追いつく転換点

近年、家庭との両立、副業、短期就労といった柔軟な働き方が拡大する中で、週20時間未満の労働者は雇用保険の保障外とされてきました。この状況に対し、政府は2028年10月から制度の見直しに踏み切ります。

この改正により、短時間労働者も保険給付の対象とすることで、誰もが安心して働ける仕組みが整えられます。背景には、労働市場の構造変化とともに、国のセーフティネットを強化する社会的な要請があるのです。


新しい雇用保険の適用条件とは?

制度の比較で見える変化の本質

以下の表で、改正内容を現行制度と比較しながら整理します。

項目現行制度(2026年時点)改正後制度(2028年10月以降)
所定労働時間週20時間以上週10時間以上
雇用見込み期間31日以上31日以上(変更なし)
加入対象者フルタイム、長時間パート短時間パート、ダブルワーカーなど

このように、週10時間以上勤務している人すべてが新たに対象となります。これにより、制度の恩恵を受けられる労働者が大幅に増加します。


企業が受ける影響と準備すべき対策

実務面の再構築と社内周知がカギとなる

新制度により、企業には次のような影響が発生します。

項目内容
手続き業務の増加加入対象者が増えることで事務処理の負荷が上がる
保険料の負担労使折半により企業側にも追加の保険料支払いが発生
勤怠・雇用管理勤務時間の記録、就業規則の見直しが必要
従業員説明体制制度理解を促すための説明会や書面通知が必要

特に小規模事業者人事体制が未整備の企業では、早めの準備が重要です。


影響を受ける主な業種と労働者の例

業種該当する短時間労働者の例
小売業週2日だけ勤務する販売スタッフ
飲食業ランチタイムのみ働くパート
医療・福祉短時間シフトの介護職員
教育放課後のみ勤務の講師
運輸午前中だけ働く仕分けスタッフ

これまで制度外だったこれらの職種でも、新たに保険対象となります。


短時間労働者にとってのメリットとは?

保障の網が広がり生活の安定に貢献

短時間しか働けない事情がある人々にとって、失職リスクに備える保障があるかどうかは非常に重要です。

効果内容
失業給付の対象に一定の条件を満たせば失業後に給付金が受け取れる
教育訓練給付の活用職業訓練費用の一部を補助し、再就職を後押し
安心感の確保社会的な孤立感の軽減と制度的な安心

たとえば、週10時間の勤務でも働く責任を果たす対価として保険加入できる仕組みは、社会の連帯を強化する意味でも大きな意義を持ちます。


制度拡大によって得られる支援一覧

支援内容概要
基本手当(失業手当)雇用が終了した後、所定期間給付される
再就職手当再就職した場合に一時金を支給
教育訓練給付金厚生労働大臣指定講座を受講すると費用の一部を補助
育児休業給付所定の条件を満たせば支給対象になる可能性も

これらは、短時間労働でも加入していれば受けられる支援です。


今後のスケジュールと実施時期の確認

段階的な制度移行でスムーズな適用を目指す

年月内容
2024年5月改正雇用保険法が国会で成立
2025年4月自己都合退職時の給付制限短縮など一部改正を先行施行
2028年10月週10時間以上の就労者に対し制度の適用開始

このスケジュールに合わせて、企業は制度導入の準備期間を確保できます。


企業が講じるべき対応の流れ

フェーズ実施事項
情報収集制度内容の把握、就業者数の確認
制度整備社内規定、雇用契約の見直し
従業員対応加入対象者への説明・同意取得
実施運用実際の申請・届出と運用体制の構築

段階的な対応が、現場の混乱回避と制度順守の鍵となります。


今後の展望と制度活用のポイント

制度は「守られるため」ではなく「活かすもの」

制度は単なる義務ではなく、企業と労働者がともに成長するためのツールです。企業にとっては、短時間労働者の定着率向上や企業イメージの向上といった副次的効果が期待できます。

一方、労働者にとっては、保険制度に守られることで、働く意欲や継続就労へのモチベーションが高まります。制度を活用することで、雇用の流動性と質の両立が実現されるのです。


まとめ

週10時間以上への拡大は、現代社会の要請に応じた前向きな制度改革

今回の改正は、働き方が多様化する今の時代において、制度が遅れていた部分を現実に追いつかせる試みです。労働者にとっては「守られる社会」の実現、企業にとっては「雇う責任と制度活用」の意識を高める機会です。

社会全体で制度の本質を理解し、準備と運用に取り組むことが、未来の安定した労働環境づくりにつながります。